つまみぐい人生100

ドン引き覚悟のネタを中心にご提供

人生初テレクラ。クリスマスの夜、サンタの格好で出会えるか?

「赤い服」

 

 

面識のない人と待ち合わせをするとき、服装など見た目の特徴を伝えることはよくあることだ。

 

 

「赤い服を着てます」

 

そう言われて、待ち合わせ場所についたら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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相手がサンタクロースの格好をしていたら、あなたならどうするだろうか。

 

 

 

 

町から消えるモノ


時代とともに、街からいろんなものがなくなっていく。
公衆電話、駄菓子屋、駅の伝言板、屋上デパート……。

 

 


私が、気になっている時代とともに消えゆくモノ。

 

 

 それはーー

 

 

 

 

 

 

 

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テレクラ。

 

 

 

 


テレクラとは何か?


テレフォンクラブの略で、電話を介して女性との出会いを斡旋する店のこと。

 

風俗店のように思う人もいるかもしれないが、店内に女性がいるわけではない。ネットカフェのような個室に電話器が置かれ、来店した男性に出会いの場を提供するサービスで、女性は自宅や店の付近から電話を掛けるというもの。

 


テレクラが生まれたのは1980年後半。1990年代には全国各地に広がった、らしい。 

 

 

 

私は1990年生まれなので、テレクラが流行ったときのことは知らない。

でも、上京した2008年に、池袋の交差点で見かけた「テレクラ」の看板が忘れられない。周りの景観を一切無視して、ギラギラビカビカと自己主張していて、東京はスゴイと圧倒された記憶の一つである。

 

テレクラは、2002年の風営法の規制から衰退期に入っており、ネットでの出会いが当たり前となった今、絶滅寸前にある。「どこどこのテレクラが閉店したらしい」と情報を知るたびに、なぜか無性に惜しむ自分がいた。そしていつしか、なくなってしまう前に一度利用してみたいと思うようになった。

 

某有名グループが関東で残り2店舗だとホームページで知ったとき、焦った。絶滅はもう目前だ。

 

 

テレクラを使おう。

 


私は、とっておきの日をクリスマスイブに設定した。

 

 

 

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テレクラHPの店舗情報には、生き残った東京都だけがぽっかりと浮かぶ

 

 

当日

 

 

コロナ禍で躊躇する気持ちを、私にとっては不要不急ではない!と振り切って当日迎えた。

街中は、例年のクリスマスムードに比べると日常に近かった。

 


前日には、ホームページの案内通り、会員登録のため身分証をメールで送った。

しかし、返信はない。どうなってんだ?

 

会員登録ができているのか不明のまま、店舗のある池袋駅西口に向かった。

 

 

 

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テレクラは駅すぐの路地にあった。路地にあるくせに、看板はデカい。デカすぎて画角に収まらない。

路地に身を潜めているようで、これでもかと存在を誇示するアンバランスさが可笑しい。

 

入店してみたいところだが、私は女性なので入れない。男は店内で電話を受け、女は店外で電話をかけ、そこで出会いの交渉をするシステムになっている。

 

 

 

私はこれからココに電話をかける。

 

実物を確認し、付近のネットカフェに移動。

 

 

 

 

 

 

 

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ネカフェを拠点にして電話をかけ、交渉が成立したら、付近で落ちあうことにする。

交渉は、まず会って食事がしたいということ。

 

 

 

 

部屋でドリンクを飲み、一息。

 

さて、すべての準備が整った。整ってしまった。

 

自分で決めたことなのに、ビビっていた。

 

時刻は19時になろうとしている。うだうだしているとクリスマスイブが終わってしまう。



 

 

 

電話をかける

 


テレクラの電話番号をスマホ入力。発信ボタンを押す。

 


プルルルル……プルルルル……

 


意外と出ない?

 


ガチャ

 

 

「もしもし、ありがとうございます」

 

 

繋がった!

 

 

「ごめんなさい、いま一人しかいなくてお話中になってます」

 

 

中年っぽい声の男が滑らかに案内する。

 

 

「お話中ですか……」

 

 

「ごめんさいねー」

 


ブチッ。ツーツーツー。

 


え、終わっちゃった……。

一人しかいないなんて、やっぱりテレクラって使われてないんだ……。

 

 

緊張が解かれ少しぼーっとした。

 

 

電話を掛けると、まずはスタッフにつながるのか。

てか、会員登録のことなにも言われなかったな。

 

 

サービスの案内は一切ない。

スピーディーすぎる応対に、テレクラがほぼ同じ人しか利用していないことを察した。

 

 

 

 

 


15分後、もう一度かけてみたが、同じ状況で一人のみ。

 

「何時くらいが人多いんですか?」

 

「お昼が多いんですよ。この時間は今週の様子だと少ないです」

 

出会い=夜という発想は安易だったと反省。

 

ネットで調べてみると、どうやらテレクラを利用する女性は主婦が多いらしい。

明日のクリスマスも空けてあるから、延長戦も見越しておくか……。

 

 

3度目のコール

 

さらに10分後。3度目のチャレンジ。

 

 

「もしもし」

 

「はい、希望はありますか?」

 

「希望? どんな希望をいえばいいんですか?」


「年齢の希望ですね」

 

「あー、希望は特にないです」

 

「はい。1番、45歳の方」

 

 

♪〜(保留音)

 

くるぞ。しかし、展開が早くてわけわからん。

新規の客に阿吽の呼吸を求めないでくれ。

 

 


「もしもし」

 

「こんにちは」


「こんばんは」


「あ、こんばんはですね。すみません」

 

「今日はどういうお相手を探してますか?」


「今日は、一緒にご飯食べる人探してます」

 

男性は、野太い声をしていた。

 

一問一答形式で「あなたの年齢は?」「いまどこにいるの?」と質問してくる。

淡々とした口調で、イメージされる顔は無表情だ。

 

 

 

 

 

 

「今日ワリキリで会える子探してるんですけど……

 

 

 

 

ダメ、ですか?」

 

 

 

 

いや、いきなり切なげになるなよ。

 

 


「ちょっと……会って考えたいですね」

 

やっぱりテレクラってこういう交渉するところだよな。覚悟はしていたぞ。

 

相手主導で淡々と質問される。

 

 

「あなた彼氏いるの?」


「いないです」

 

「どれくらいいないの?」

 

「1年くらいですね。お兄さんは?」


「2年くらいいないかなー。じゃあ1年くらいいないってことは、1年くらいエッチしてないの?」

 

「そうですね」

 

 

「えぇ!? そうなの!?」

 

 

驚き過ぎでは?

 

よし、こっちも質問してみよう。

 

 


「お兄さんは、テレクラよく使うんですか?」


「まぁたまに使います。使うけど、久しぶりなんですよ」

 

「いろんな方法があるなか、テレクラにするのはなんでなんですか?」

 

「え、風俗とかそういうの? やっぱり素人の女の子の方がいいかなって」

 

「なるほど」


「いろいろ規制がないじゃない?  交渉次第じゃない、要は。お店の女の子だったら何時間とか何分とか決まっている。こういうところで会う女の子なら、交渉次第でなんとかなるじゃない。だからその辺がいいかなーって」


「なるほど。テレクラでいい出会いはありますか?」


「たまーにいます。綺麗な子がいたり」

 

「そうなんですね。年齢はどれくらいですか?」

 

「最近は40代が多いかな。昔は10代もいたけどね。高校生がかけたりとか。あなた、高校生のときかけたことある?」

 

 

「いや、ないいですねー。私、今日初めてかけたんです」


「今日!?」

 


「はい」

 

「今!?」

 

「今です」

 

「今日初めてなの!?」

 

 

「はい」

 


この人、驚いた時だけ、人の血が通っている感じがするな。

 

 

 

「これをきっかけにいいんじゃない? クリスマスだし、全然知らない人としてみるのもいいんじゃないでしょーか?」


「そこまでの気持ちになれるかはわからないですけど」

 

「大丈夫だよ、気持ちの準備なんて、大丈夫大丈夫」

 

「ちょっと今はわからないとしか言えないです」

 

「はは、そう? じゃあしょうがないかなー。じゃあ変わるね」

 

 

♪〜(保留音)

 

おお、去り際はあっさり。やっぱりワリキリとかじゃないと会えないのかな……。

 

 

 

 


「もしもし」


「はい、2番、46歳です」

 

早。わんこそばかよ。

 

 

 

 


「こんばんはー」

 

さっきの人より、優しそうな声の持ち主。

 


「こんばんはー、はじめまして」


「おいくつですか」

 

「30歳です」

 

「そうですか、51ですけど大丈夫ですか?」

 

 

ん?  聞いてた年齢と違うけど、大丈夫ですか……?

 

 

 

 


「今日の電話は気休めの感じ? なんで?」


「クリスマスなので、一緒にご飯食べられる人いないかなーと思って、はじめてテレクラに電話してみました」


「はじめて?  こういうとこ」


「はい」


「へぇー。今日はごはんのみって感じですかね?」

 

「んー、会って考えます」

 

「いいですよ」

 


きた! 釣竿の先が動いたぞ‼︎

 

 

「どんな感じの人?」


「どんな感じって?」


「身長とか」

 

「162ですね」


「ぽっちゃり型? 痩せ型?」


「普通体型ですかね。お兄さんはどういう感じですか」


「171の70キロくらいです」

 

 

一問一答して、相手のイメージを形作っていく。

 

 

「どんな格好してるの?」


「赤い服着てます」

 

「コート?」


「そんな感じです」

 

「あとは特徴あるかな?」

 

「髪が首くらいまで」


「染めてるの?」

 

「染めてないです、黒いです。靴は茶色いムートンブーツです」


「だいたいわかりそうかな」

 

「お兄さんは?」

 

「仕事終わりなんで、黒いコート。下も黒っぽい。ショルダーの黒いカバンです」


「わかりました」

 

 

 

「僕、一時間前くらいに食べたから、あんまり食べられないんですよ。だから喫茶店みたいなところでもよければ」


「全然うれしいです!」

 

「それでもしあれだね。話もあえば、そのあともどうかなって」

 

そうそう、それ以上のことは、会って考える!

これは建前ではなく、家で着替えるときに一応下着の上下を揃えるよう意識してきたし。

 

名前は村井さん(仮名)。待ち合わせは、19時50分に東京芸術劇場の噴水前になった。

 

 

「じゃあ声かけるんで待っててください」

 

「ありがとうございます!」

 

電話が切れた。

 

 

 



やったー!交渉成立! 

 


それにしても、テレクラ、逆に新鮮だな。

 

顔が見えない、声しかわからない。聞かなきゃ何もわからない。

シルエットと声のイメージに質問でわかった情報を付け足していく。

 

登録すれば、ビジュアルから年収までほぼほぼわかるマッチングアプリとは真逆。面白い。

 

 

会いに行く

 

 

ネットカフェの個室で用意していた服に着替えて、準備は整った。


テレクラを使うなら、試したかったこと。テレクラは、服装の特徴を頼りにして落ち合う。服装の特徴を聞かれて、「赤い服着てます」と伝える。

 

 

 

 

その赤い服というのが

 

 

 

 

 

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サンタクロース。

 

 


テレクラを使ってみたいと思ったとき、サンタさんの格好をして出会えるのだろうか?という疑問が浮かんでしまったのだ。それもヒゲまでつけたガチ目のサンタで。

 


ネットカフェが入ったビルの全身鏡で自分の姿を確認。うん、いろいろとキツイ。我に返ると気落ちしてしまう。意識的にテンションのギアを上げた。

 

 

 

 


街中に出ると、「サンタさんだー」と子供に指をさされた。

 

ごめんね、私は子供に夢を与えるタイプのサンタさんではなく、ただテレクラのおじさんに会いたいサンタさんなんだ……。

 

 

 

 

 

 

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広場に着いた。通行人に写真を撮ってもらった。

 

サンタ、めちゃくちゃ目立つな。

通り過ぎる人や広場のベンチに腰掛ける人が、奇特な目で一人身のサンタを見ている。

 

 

 


会えるかな。村井さん、どこだろう。

 

 

 

ドキドキしながら待つ。


村井さんの特徴は、黒のコートに、肩掛けカバン。ほとんどのビジネスマンに当てはまる。

 

 


期待と不安から、「あれが村井さんかな!?」とだいたいの人が村井さんに見えてくる。

 

 

 


村井さん、会ってくれ……。

 

 

 

 


口周りのふわふわしたヒゲ飾りが煩わしい。ちょっと動くと帽子がずれ落ちそうになる。寒さで体が丸くなりそうなところを、サンタさんらしくあらねばと胸を張る。

 

 


祈るような気持ちで待ちながら、時間が過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

10分、20分と経過……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あーーーーーーーやっぱり、来ない。

そりゃそうだよね……。

 


村井さんは、遠目から見たサンタの女にビビってしまったのだろう。無理もない。

 

 

 

私も相当厳しいという自覚はある。だから、村井さんを責めたりしない。

 

 

むしろ、ごめんなさいと言いたい。

背中を丸めてネットカフェに戻った。

 

 

 

4度目のコール

 

20:30。

ネットカフェに戻ると、精神的に疲れたのか仮眠を取ってしまった。


このまま寝るわけにはいかない。もう一度コール。

 


「いらっしゃいませ、テレクラです」

 

初めて言われた。接客マニュアルゆるゆる。


「ごめんなさい、いま一人しかいなくて会話中です。一応58歳の人いるんでまたよかったら」

 


やっぱり人少ない。時間を空けてまたかけよう。

 

5度目のコール

 

「相手の方が58歳の方だけになっちゃいますけど」


さっきの人かな。まだいるんだ。

 

「お願いします」

 


♪〜(保留音)

 

 

「こんばんは」


「こんばんは」

 

明るい声をした優しそうな男性。

 

 

「おうちかな?」


「まぁそんな感じですね」

 

「静かだもんね。外だとガーガーいってうるさくて。だからよかった」

 

 

前の人がうるさかったのかな? 声に感情が乗っていて話しやすい。

 


「いくつなの?」

 

「30歳ですー」

 

「30歳! かわいいやん」

 

さすがに早計すぎやしないか。

 

 

 


「俺が58だから、30歳くらいが一番かわいい! な××いよね」(聞き取れない)


「え?  なめたい?

 

なでたい! なめたいじゃないよ!(笑) なでたい!」

 

「あ、なでたい、か! すみません」

 

やばい、こっちが変態になっちゃったよ。

だけど、ちょっと笑いが起きたことで緊張がほぐれた。

 

 


身の上話を少々すると、同じ北海道出身だということがわかった。通っていた高校など地元トークに花が咲く。


「北海道同士だから安心だよ。いいじゃん、付き合おうよ

 

やっぱり早計すぎやしないか。

 

 

 

 

 


「今日クリスマスイブでさ、会う人もいないし、誰かいないかなと思って。ケーキも食べたいなって思って」


「あ! ケーキ食べたい!」

 

「食べようよ! 11時までケーキ屋さんやっているから」

 

 

さっきと同じように身長と体重を聞かれて、身長を162と答えると

「やっぱり!高いような感じした!」

 

体重を答えると

「ちょうどいいじゃん!ばっちりだよ!」

 

って、なんかいちいちオーバーだけど、電話はテンションが高いほうがいいのかも。

 

 

「どんな格好でくる?」

 

「わたし赤い服できます」


「赤、じゃあすぐわかるね。僕は岩下(仮名)です」

 

「わたしはマイです」

 

 

 

 

「マイちゃんね。もしわかんなかったら非通知でいいから電話して。電話番号は……」

 

岩下さんは電話番号を教えて伝えてくれた。

 

 

 

 

「ケーキ食べようね!電話は終わった。

 

 


サンタの格好で、クリスマスに一緒にケーキを食べれたら最高だ~!

 

岩下さんは、人当たりのいい感じがしたし、地元も同じで話が弾んだ。

 

期待大‼️

 

 

待ち合わせ

 

 

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待ち合わせは、池袋西口のマック前で23時。

サンタの格好を整え、5分前に到着。

 

店前にはウーバーイーツの配達員が待機している。私は、そこから少し離れてサンタ姿で岩下さんを待った。

 

 

目の前の交差点を見ると、人の群れが駅へと向かっていた。もうすぐクリスマスイブが終わる。

 


「お姉さん、お疲れ様―!」

 


酔っ払った若い男女3人組が交差点の向こうから駆け寄ってきた。

 

お疲れ様ーって言われても、私はバイトでサンタの格好で働かされるタイプのサンタさんではなく、ただテレクラのおじさんに会いたいサンタさんなので申し訳ない。

 

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「これいる?」


ゲームの景品らしきカイロとカップラーメンを差し出された。

酔っ払っているのかケラケラ笑って上機嫌の様子。

 

ありがとう……。

私サンタさんなのに、渡せるものないよ。

情けないサンタである。

 

 

 

 

 

 

気づくと待ち合わせ時間になっていた。

 

 

そういえば岩下さんの特徴を聞きそびれた。


あのスウェット姿の無精髭の人かな?

公衆電話を使ってるおじさんがいる、もしやあの人?

 

岩下さん、待ってるよー! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ーー5分が経過。

雲行きがあやしい。

 

 

 

 

教えてくれていた番号に非通知で電話をかけてみたが、繋がらない。

 

 

 

 

 


10分が経過。

 

 

 

もう一度かけるが、繋がらない。

 

 

 

 


来ない。

 

 

 

来ない。

 

 

 

来 な い。

 


……やっぱりだめかぁ。

 

ネカフェへ帰り、白いひげを取る。

 

 

 


やっぱりこんな格好じゃ……。このまま誰にも会えないのかもしれない。


これはやっぱり不愉快なドッキリなのだろうか。自分からやってるくせに疲弊し、気が小さくなっていた。とはいえ、全員が全員そうじゃない、はず。

そう思いたい……というのは押し付けだろうか。

 

 


でも嫌だったら、その場を立ち去ることはできる。相手に選ぶ権利はあるから。

出会い系とはそういうものだ、と少し開き直ってみる。


気持ちが行ったり来たりする中、「こんなことしてすみません」という思いは拭えない。

 

 

 

教えてもらった番号にショートメッセージを送る。

自分の番号はバレるけど、いいや。

 

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23時半にもう一度テレクラに電話をかけたが、「誰もいない」とスタッフに言われてしまった。テレクラは、24時で営業終了。

 

 


仕方ない。明日のクリスマスに懸けよう。

 

利用者は昼が多いらしいから、昼から電話だ。

 

 

 

 

 

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ひと仕事を終えた気持ちで、さっき若者にもらったカップラーメンをすすった。

 

とんこつラーメン、おいしいよ。ありがとう……。

 

 

 

着信あり 

 

 

0:30 スマホの電話が鳴った


登録されいない番号。もしや!?

 

 

 

 

 


「いま近くにいるんだけど、いる?」

 

 

 

 

 

岩下さんだ!

 

 

 

 


「え!! いますよ!」

 

「俺まだいるんだよ、待ってたんだよ、ずっと」

 

「うそ! マクドナルド前ですよね?」

 

「ケータイの電池が切れちゃったから。いま充電してやっと繋がったんだよ」

 

 

 

 

 

 


「今から会えない? マックの前にこれる? 5分くらいで」

 

 

 

 

「行けます!!!!!!!」

 

 

 

 

慌てて白ひげを付け直し、足早にマクドナルド前に到着。

 

ずっと待ってたってどういうことだ? サンタの格好は遠目で確認していたのか?

 

いろいろ疑問はあったが、今度こそ会えますように!

 

 

 

 

もうすぐ近くにいそうな感じだったけど、大丈夫かな。

この格好で会ってもらえるかな。

 

 

 

岩下さんの特徴をまた聞きそびれた。

どれだ、どの人が岩下さんなんだろうか。

 

 

 

 

ソワソワドキドキ。あたりをキョロキョロ見て落ち着かない。

 

 

岩下さん!! 頼む!! 

 

 

 

会ってくれ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え!? サンタさんじゃん!」

 

 

 

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目が合った背広のおじさんに声をかけられた。

 


「岩下さん!?  そうなの!サンタさんだよ!」

 

 

 


「すごい! サンタさんだったんだ!

 

 

面白い、嬉しいよ‼️」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、こういう奇跡を待っていたんだ! 

 

 


モヤモヤした不安や申し訳なさは、岩下さんの嬉しそうな笑顔で一瞬にして消え去った。出会えてよかった。

 

 

 


岩下さんは、加山雄三風の紺色のジャケットを着たビジネスマン。清潔感もあるし、イメージ通り優しそうなオーラを纏っていた。なんとなく小汚いおじさんを想像していたので、拍子抜けした。58歳には全然見えない。

 

 

「かわいい、もう惚れちゃった」

 

岩下さんは、おちゃめな表情を浮かべた。サンタの格好を純粋に喜んでくれているようだった。


「サンタの格好したら引かれるかなと思ったんだけど、喜んでくれたみたいでよかったです!」


「今日はクリスマスだもんね。偉いなーっ! この格好ででも着替え持っているんだよね?」


「一応この服の下が普通の服ですよ」


「いやーそれを見てみたいな興奮しちゃうかも(笑)」

 


スケベジョークを軽快に口にする。まぁこれくらいはかわいいものだろう。

 

 

 


今日の食事はカップラーメン1つ。お腹はペコペコであった。

 


「ご馳走するよ!」

 


電話で「ケーキ食べようよ!」と言ってくれていた。

 

どこに連れて行ってくれるんだろうと期待に胸を膨らませた。

 

 

 

 

10分ほど歩いて、連れて言ってくれた先は……

 

 

 

 

 

 

 

 

やよい軒だった。

 

 

 

 

すき焼き定食でクリスマスデート



 


「好きなの選んでいいよ」

 

岩下さんは、サンタの格好した女を横に連れていても何事もないように店頭の券売機を案内してくれた。私はすき焼き定食を選択。


しかも、岩下さんは「ご飯を食べてきてしまった」とお店の人に断って自分の注文しなかった。はたから見れば、クリスマスの日に、サンタの格好をした女にすき焼き定食を奢るためだけに来店した不思議なおじさんだった。その横にいるサンタの私も大概だが、少々周りの目が痛かった。

 

 

 

 

 

 


カウンター席に着くと、水のグラスで乾杯した。

 

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なんか、ケーキの話はなくなったっぽい? ちょっと残念。

でも、おごってもらえるのはありがたい…。

すき焼き定食をいただく。

 

 


岩下さんは、ポジティブな言葉が自然と出るイメージ通り柔和なおじさんで、「かわいい」「うれしい」と連呼していた。

 

 


「彼氏いないの?立候補してもいい?」

 

「好き? おじさん好き? 年上すき?」

 

「俺で大丈夫?」

 

「嫌いなタイプ?好きなタイプ?」

 

 

怒涛の質問を食らう。

「付き合っても40くらいだよね〜?  さすがに50は厳しいよなー」って、私は何も発言してないんだが……。

はやる気持ちを自制させようとする姿は、ちょっぴり切ない。もっとヤバイ人の可能性を想定していたので、予想よりも紳士的に映った。

 

岩下さんは、テレクラを使うのは2回目。「店内にはエッチビデオがたくさんあって個室ビデオをよりも女の子から電話がかかってくるかもしれないし、料金は4時間で3000円でテレクラは安い。シャワーもあるしね」と利便性を語ってくれた。なんとなく2回より多そうな気が。

 

電話は5分置きに鳴っていたそうだ。

 

「私以外にはどんな電話がかかってきましたか?」

 

「『2時間で1万円でどう?』『今日泊まっていいいい?』とか。でも、愛情がないエッチはできないじゃない?『会ってよければ考える』って言ったら、『じゃあいいです』って断わられて。なんでそんなこと言ったんだろ、自分馬鹿だなってちょっと思ったよ(笑)でも、ワリキリとかは飢えている狼みたいだからいやなんだよ。電話だけじゃわからないじゃん。

 

『私、Mなんだけどいじめてくれない? 手錠をかけてなめほしい』なんてコもいたよ。でも俺そういう趣味なくってさ。『わかった。じゃあ俺トイレ行ってくるから一回他の人に回すね』って。せっかくそこまで言ってくれているのに嫌だとか言ったら悪いじゃない? 傷つくでしょ」

 

テレクラならではの気遣い。興味深い。

 

岩下さんは、彼女を探しているらしい。失礼ながら、テレクラ=エロ目的とばかり思っていたので、予想外だった。

 

マッチングアプリも使ったことがあるが「サクラばっかり。全部絵に描いた餅でダメ」。風俗は「嫌いなんだよね。口説いて付き合ってからそういうふうになりたいな」とのこと。

 

 

「テレクラなくなったらどうします?」

 

「もういかないよ。だってもう君がいるから

 

 

ロマンチックなセリフだけど、テレクラの流れで言われるのは少々無理がある。

 

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後ろでおかわりのお水を汲んでくれる岩下さん

 


「ご結婚はされてないんですか?」


「結婚してたんだけど別れちゃって。15年前。最近はバツイチのほうモテるっていうから、バツのほうがいいかなって別れちゃってさ」


なんとなくそんな気がしていた。結婚してもいても不思議ではない印象だったので。


「俺ね、タネが薄いの。精子が薄くて子供ができない」

 

岩下さんはこちらが深く聞くまでもなく、自分のことを打ち明けた。


「子供が欲しいけどできないから奥さんと病院に調べにいったの。試験管みたいなの入れてさ。そしたら精子が普通の人の半分しかないって。精子濃くならないかなって10日出さないようにしてもう一回、やっぱり薄いものは薄い。だから子供できないんだってわかって。奥さんと話して『悪いんだけど、別れてほしい』って」


なんと言葉をかけたらいいか、すぐに言葉は出なかった。


「しょうがないよね。そういう体だから。だから捨てられちゃった、かわいそうな人生なの。癒してくれる?(笑)」

 

元奥さんは、結局子供を産みたいと思えるほどの相手に出会えず、再婚はしなかったらしい。憎しみあって別れたわけではないので、今でも年に数回、一緒にディナーショーに行ったりする仲だという。

 

 

カウンター席で、サンタ姿の女と、訳ありおじさんのディープすぎるトークは繰り広げられていた。周りの人は、間違いなく聞き耳を立てていただろう。

 

 

「夢のようだ」

 

そのあと、カラオケに行くことに。普段は初対面の密室は避けているので私はやや警戒したが、岩下さんは大丈夫そうだと信じることにした。

 

カラオケの店員はナゾの男女二人組を怪しく思ったのか、受付真横の部屋に案内された。

 

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岩下さんは『熱き心へ』小林旭、『Love Me With All Of Your Heart』Engelbert Humperdinckなど、昭和の流行ソングを歌った。

 

私も自分の好きな歌を入れて、普通にカラオケを楽しんだ。私の警戒心は次第にほぐれていき、岩下さんのリクエストで一緒にいきものがかりの『風が吹いている』を歌った。

 

なぜかさみしいだけ

なぜかむなしいだけ

 

尾崎紀世彦の『また逢う日まで』の歌詞のせいか、岩下さんはときおり寂しげに見えた。



 

 

カラオケに飽きて、少し話す流れになった。

 

「3年前、55歳のとき18歳のコと付き合っていたよ」

 

え? 年の差えぐい。

 

サンシャイン通り歩いていると、目があって『こんばんは』って声かけてくれるんだよ。それで『飲んでいく?』って誘って。この人ならいいなって声かけてくれるのよ」

 

まさかの逆ナン……!?

 

 

ほかにも、池袋のドンキでコンドーム売り場で28歳の女子と立ち話になり「わたし、そんな年上の人と付き合ってみたいの」と言われ付き合ったとか、東洋英和女学院卒でお嬢様育ちの幼稚園の先生に「経験したことないから教えてくれない?」とカーセックスしたとか……。

 

 

 

私は「すごいモテますね~」と盛り上げつつ、エピソードの真偽を疑っていた。

もうキャバ嬢さながら。一緒に食事をしてカラオケも二人きりで楽しんでるし、かなりコスパいいのでは? などと思ったり。でも私はキャバ嬢じゃなくて三十路のサンタだしな。

 

 

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終了時刻の電話が鳴ったが、岩下さんは30分延長を2回リクエストした。楽しそうな岩下さんが最後まで満足できるように、ささやかながらサンタマインドを持ち出し、朝5時を過ぎまで付き合うことにした。

 

 

岩下さんは、私に一度も触れることはなく、最後まで一定の距離を保って接してくれた。コロナのソーシャルディスタンスのせいか、距離を縮めるにはハードルが高い空気がある。はじめてあの煩わしいコロナルールにメリットを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

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「今日は夢のようなクリスマスイブだったよ」

 

自然と解散の流れになり、岩下さんは満足そうに駅の改札口へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

「夢のようなクリスマスイブ」だなんてオーバーな!と思ったけど、一人になって余韻に浸ると、あながち間違いではない気がした。

 

 

岩下さん、会ってくれてありがとう。

 

ショートメッセージにお礼のメッセージを送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論

 


テレクラでサンタの格好しても会える。

 

 

 

 

そして、わかったことはもう一つ。テレクラは純粋な出会いの場でもあるということ。

 

テレクラといえば、怪しくて危ないイメージが先行するが、昔ながらの方法で男女の出会いを求めている人もいるのだ。スマホ操作がおぼつかない岩下さんのような世代にとって、テレクラはマッチングアプリがなかった時代のソレなのだ。

 

 

 

 

 

 


だからこそ、渡せなかったものがある。

 

 

 

 

 

 

 

サンタさんだからと、この日のために用意した、とっておきのクリスマスプレゼントが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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風俗のギフトカード。

 

 


テレクラで会うとなれば、どうにかエロを提供しなくてはならないのではないかと思って、考え抜いた術だ。

 

ネットで探し回っても見つからなかったのだが、知り合いの風俗店の人に購入させていただいた。2万5000円。当然、自腹である。

 

 

「付き合えない?」と口説いてもらっている相手に対して、風俗チケットを渡すのはさすがに憚れる。風俗は好きじゃないと言っていたし。

 

 

ということで、これは誰かに抽選でプレゼントすることにします。

ツイッターを見てね)

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、岩下さんには「今度はサンタじゃない格好で会ってね」と言われてたけど、あれから1年、連絡はない。

 

本当、夢のようなクリスマスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エピローグ



時刻は朝6時。ネカフェに戻ってエレベータを開けると、目の前でサンタクロースの2人に遭遇。こんな偶然あるのか。

 

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若い兄ちゃん2人。どこぞのパーティー帰りかと思いきや、そうではないらしい。

 

2人は美容師で、今日はお客さんを喜ばそうとサンタの姿でヘアカットするために朝から準備していたらしい。


素敵な心意気だ。ちょうどしばらく髪を切っていなかった。「その美容院、行っていいですか?」と予約を入れた。

 

ちなみに、私がサンタの格好をした理由を話すと「テレクラ? なんですかそれ」と返された。

 

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クリスマスの15時。お互いサンタの格好をして、髪を切り、切られていた。


美容師の兄ちゃんは12月からデビューしたての新人君。そのクオリティは、後日人に会うと「前髪変じゃない?」と言われてしまうものだった。

 

でも、美容師になった経緯を語ってくれて「お客さんが笑顔になってくれるのが嬉しい」と、髪を切りながらさらっと言った言葉に胸が熱くなった。

 

最後まで、いいクリスマスだった。